世界が飛翔する刻

第〇.五章 ライクオアラヴ

2010/1/13

マサトの親友フィリオに対する思いは日々高まっていた。ある寒い日、マサトが湯船で身体を温めているとフィリオが入ってこようとしている! なし崩し的に一緒にお風呂に入ることになってしまったマサトはその日の夜、思いを抑えられず一人で致してしまう。

~2069年11月~

シンプルな外見をしたアパートの駐輪場に竜族の少年二人が帰って来る。

「ふぅ、ようやく着いた。寒かったな~」

背の高いほうの少年、マサトが白い息を吐きながら言った。空には綺麗な三日月が浮かび、一面の星空が広がっている。昼間は太陽から降り注ぐ光のおかげで暖かかったが、夜になると晴れた空が幸いして冷え込んだようだ。

隣の小柄な少年、フィリオも冷えた両手をさすりながら口を尖らす。

「もう! 天気予報ではこんなに寒くなるなんて出てなかったよ! 先に分かってれば手袋持って行ってたのに」

全身を長い毛で被われたフィリオでもやはり冷えるらしい。

マサトは自分の自転車に鍵を掛け、不満を言う友人をたしなめる。

「フィル、そんな事言ってるけど、家出る前にちゃんとここの天気予報見てたかのかよ? 確か、来週の実習が気になるからって沖縄の予報表示させてなかったか?」

マサトに指摘されたフィリオは慌ててポケットからPDAを取り出す。

「そっ、そうだったけ? そういえばやけに気温が高かった気がする……」

コンタクトに浮かんだ天気予報の地域名を見て右の翼をひらひらと羽ばたかせた。フィリオが照れたときによくする仕草だ。いつもはしっかり者で通っているフィリオだが、時々、信じられないミスをする事がある。

「ほら、やっぱりそうだろ? 我らのリーダーがこんな単純な間違いを犯すなんて……。これからが心配だなあ」

普段はからかわれてばかりのマサトはニヤニヤと笑みを浮かべ、ここぞとばかりにフィリオを茶化す。

「寒くなるって分かってるのに、何にも準備してないマサトに言われたくないよ」

頬を膨らしたフィリオはかごの中の買い物袋を手に取り、さっさと玄関へ向かう。マサトは勝利を噛みしめつつ、ゆっくりとした足取りでフィリオのあとを追った。

マサト達の顔を認識して、正面玄関のドアが開く。平凡な外見の割りに、セキュリティはしっかりしたアパートである。マサト達はレンガ造りを装った階段を登って、二階にある自宅へ向かう。

部屋の前のカメラに再び顔を映し、ロックを解除する。マサト達は2DKの部屋を借りている。二人でもゆったり暮らせるサイズである。

ドアを開けると、玄関に置かれた観葉植物が二人を出迎えた。靴も良く整頓されており、男の二人暮らしにしてはきれいな玄関だ。しかし、廊下の先に目を向けると、ドアの前に山のように積み上げられたガラクタが見える。その部屋の主はフィリオである。外では仕事が良くできる人で通っていても、家の中ではルーズな人は結構いる。逆に、玄関右側は几帳面なマサトの性格を反映してか、よく掃除されているようだ。

「暖房、強へ変更」

靴を脱ぐのに手こずりながら、マサトが音声でエアコンに指示する。スカイ・ドラゴン種は足に鉤爪を持つため、靴が脱ぎにくい。マサトの横をフィリオがすり抜け、トタトタと風呂場の方へ向かう。

「体冷えちゃったし、先にお風呂にしようよ。今日はお湯張ってもいいでしょ?」

家事の担当はちゃんと分担してあるのだが、結局はマサトが面倒を見ることが多い。毎日お湯を張ると掃除が面倒なので、フィリオには節約のためになるべくシャワーだけにしようと言ってある。しかし今日は、フィリオの言うとおり体を暖めないと風邪を引いてしまいそうなのに加え、実習ではシャワーのみの生活になるので、特別にお湯を張る許可を出すことにした。

「まあ、今日くらい良いか。ただし、俺が先に入るぞ」

「どうぞ。そのかわり、僕がお風呂から上がるまでに夕食作っておいてね」

自分はろくに家事もしないくせに、フィリオは無理な要求する。マサトは自分とフィイオの靴をきちんと並べながら、いつもの事だと軽く流す。

「はいはい、分かったよ。まあ、米くらいは炊けてるだろうし、確か使い残しの鰹節が余ってたはず……」

「マサト、いくら優しい僕でも、そんなベタなボケには答えられないよ。じゃあ、お湯張っとくから、さっさとお米研いでおいてね」

マサトが言い終わらない内にフィリオが口を挟む。半分以上本気で言ったつもりだったのだが、どうやらフィリオには理解されなかったらしい。マサトの意見は受け付けないとでも言うようにフィリオはクルリと体を翻してマサトに背を向け、さっさとお湯を張りに行ってしまった。ふさふさの尻尾がふわっと浮きあがったのを見て、マサトは先ほど相手にされなかったことも忘れて思う。

(あの尻尾、美味しそうだな……)

フィリオの尻尾が扉の奥に消えるまで見送ったあと、ようやくマサトはキッチンに向かった。

冷蔵庫からお米を取り出しながら、マサトは今日一日を思い返す。

(久しぶりに充実した一日だったな。実習はフィルと同じ部屋になれたし、おそろいのマフラーも買えたし。それにしても、フィルの上目遣いはかわいすぎだろ。本人の前で言いたいけど、やっぱ無理だよなぁ)

フィリオなら、自分の思いを受け入れてくれそうな気もするが、同性に魅力を感じるという世間一般から外れた考えを口にするのはやはり怖い。その気持ちを知ってか知らずか、最近、思わせぶりな言動が目立つフィリオが無性に腹立たしい。

マサトは悶々とした思いを抱えつつも、慣れた手つきで米を研ぐ。今時、自分の手で米を炊くのは珍しいが、そこはマサトのこだわりである。今日は時間的に高速炊飯にしないといけないのが気に食わないが、まあ仕方が無い。炊飯器のスイッチを入れたところで、コンタクトにお風呂の準備が完了したことを示す表示が出た。同時に、フィリオの声が壁越しに聞こえる。

「マサトー、お風呂準備できたよ。早く暖まりたいんだから、さっさと入ってよ!」

「分かったよ。すぐ入るって」

マサトは大声で返事し、着替えを取りに自分の部屋へ戻る。

風呂はトイレと湯船が分かれたセパレートタイプで、マサトの部屋の前に入り口がある。風呂場の横はトイレである。脱衣所で服を脱いだマサトは軽く体を流し、先に湯船に入ることにした。湯船は一人分のスペースしかないが、大柄なマサトでも窮屈ではない。程よく熱いお湯がマサトを包み込み、冷えた体を溶かす。マサトはじんわりと広がる暖かさにゆっくりと息を吐く。今日はシャワーではなく、お風呂にして正解だったと一人頷いた。

マサトが湯船で翼を広げ、文字通り羽を伸ばしていたとき、脱衣所に誰かが入ってくる音が聞こえた。考えられる侵入者は一人しかいない。子供のころはいつも二人で入っていたが、マサトがフィリオのことを意識しだした数年前から一緒に入ることを止めてしまった。前を隠して一緒に入るのを嫌がるマサトを見て、フィリオはなぜ男同士なのに恥ずかしがる必要があるのだろうと思ったようだが、マサトがあまりに恥ずかしがるので、気を遣って別れて入るようになった。銭湯などでみんなと一緒に入るときはそれほど恥ずかしくないのだが、それでもフィリオの方は見ないように気を付けている。

それなのに、今にも裸のフィリオが風呂場に入ってこようとしている。突然のことにマサトは焦り、思わず湯船から立ち上がった。マサトがドアの方向を見るのと時を同じくして、フィリオがドアを開けて風呂場に入ってくる。はっとしたマサトは大慌てで前を隠し、勢いよく湯船に舞い戻る。急にしゃがんだため、尻尾が水面を叩いてお湯が盛大に跳ねた。

「フィっ、フィル、突然どうしたんだよ! 俺が先に入る約束だろ」

フィリオは、突然襲い掛かってきた水しぶきに驚くと同時に、まるで少女が入浴を覗かれたかのような反応を見せるマサトを見て苦笑する。

「わっ! マサト、そんなに驚かなくてもいいじゃない。ただ、寒くて我慢できなかったから、一緒に入ろうと思っただけだよ。お湯に浸かるのはマサトが先でいいし、体洗うの手伝ってあげるからさ」

体を洗うのは別として、フィリオは特におかしなことは言っていない。フィリオはマサトの反応をしばし待つが、当のマサトは、前を隠そうともせず自分のモノを堂々と晒すフィリオの裸体に釘付けになっている。

(フィルのやつ、立派なもの持ってるな。俺のより大きいかも。それに、体も柔らかそうだし)

マサトはゴクリと生唾を飲み込み、フィリオの体を上から下まで観察する。フィリオもマサトの明らかな視線に気付いたようだが、特に見られていることを気に様子もなく、風呂場に置かれた椅子に座った。

「じゃっ、先に僕が体洗うね。その後にマサトを洗ってあげるよ」

慌てて視線をはずしたマサトは、逆にフィリオの体を洗ってあげると提案しようか一瞬迷ったが、自分の体を省みてその考えを却下した。フィリオの裸を見ただけで、マサトはすこし大きくなっているのに、その体を触ってしまったら自分を抑えきれるかどうか自信が無い。マサトはその場を取り繕うように、前をタオルでしっかりと隠しながら立ち上がり、フィリオに申し出る。

「フィル、そんなに寒いんなら、先入ってもいいぞ。俺はもう十分暖まったからさ。お前が入ってる間に自分で洗うよ」

せっかくのチャンスをみすみす逃すのは残念だが、自分の状態をフィリオに気付かれるのはまずい。今ここでフィリオに体を洗われるのは避けなければいけないだろう。

「そう? じゃあ、お言葉に甘えて、浸からせてもらうよ」

フィリオは素直に申し出を受け入れ、マサトと場所を交代する。

「ふぁー、やっぱりお風呂は気持ちいいね」

体を洗うマサトの後ろで、フィリオが上機嫌に鼻歌を歌い始める。相変わらずひどいリズムと音程だ。

マサトが体を洗い終え、頭を洗っているとき、唐突にフィリオが口を開いた。

「ねえ、マサト。こうやって一緒にお風呂はいるのって久しぶりだね」

「ああ、そうだな」

しばしの沈黙。後ろでぱしゃぱしゃと水が跳ねる音がする。フィリオが尻尾で遊んでいるのだろう。

「ねえ、変なこと聞くけど、マサトは僕のこと好き?」

フィリオの発言にマサトは手をとめ、はっと息を呑んだ。マサトの脳裏に今後の展開がよぎる。

マサトの返事を待たず、フィリオがあとを続ける。

「今日、ドーナツ屋さんでマサトに感謝してるって言ったでしょ。あれ、ホントにそう思ってるんだ。僕はマサトのこと好きだよ。いつまでもホントの家族だと思ってるから」

普段は強がっていても、孤独感に負けそうになることがあるのだろう。両親が健在とはいえ、離れて暮らすマサトにもその気持ちはよく分かる。いや、フィリオ以上に自分は親友を必要としている。

邪なことを考えた自分に少し決まりの悪さを感じつつ、マサトは何か返事をしようした。その直後、突然マサトの頭に水流が襲いかかる。水の量が半端でなく、息ができない。どうやら洗面器でなく、掃除用のバケツを使ったようだ。

「げほっ、げほっ! いきなり何するんだよ!」

真面目に答えようとしていただけに、いっそう腹が立つ。

「何って、これまでのお礼だよ。体洗うの手伝ってあげるって言ったでしょ」

せっかくいい雰囲気だったのに、台無しにされてしまった。自分で作っておきながら、途中で恥ずかしくなってぶち壊すその態度がフィリオらしいといえばフィリオらしい。息を整え、マサトは一気に捲し立てる。

「さっきの質問の答えだけど、俺もフィルのこと好きだぞ。これからもずっと一緒だからな! じゃ、俺は先に上がって飯の用意してくる!」

マサトは急に立ち上がり、風呂場を出た。

体を軽く拭いた後、キッチンに戻る。毛の長いフィリオと違い、短毛のマサトは髪の毛さえ乾かせばあとは自然乾燥で十分である。マサトは冷蔵庫から玉ねぎと鶏肉を取り出し、手早く下ごしらえを始める。今日のメニューは調理が簡単な親子丼だ。

フィリオが体を乾かす時間を考慮に入れて割り下と鶏肉、玉ねぎを火にかける。溶き卵が半熟になったところで、フィリオがキッチンに現れた。我ながら最高のタイミングだ。ご飯の蒸らしが少し足りないが。

「フィル、いいとこにきたな。冷蔵庫に漬物入ってるから出してくれ。あと、三つ葉もついでによろしく」

「えっ、もうできてるの? さすがマサト! 仕事はやいね」

「……フィルが風呂上りまでに作れって言ったじゃん」

フィリオが冷蔵庫に頭を突っ込みながら答える。

「そういや、そんなこと言ったっけ?」

「言ったよ! だから急いで作ったんだろ」

抗議には耳を貸そうとせず、取り出した皿をマサトに渡す。

「はい、これ三つ葉とお漬物ね。あと、お味噌汁も作っとくよ」

フィリオとの付き合いが長いマサトにとって、こういう事態は珍しくない。フィリオの味噌汁が気になったが、さすがにインスタント食品で大きな失敗は無いだろう。

食事の準備が出来、二人は席に着く。

「さて、それじゃあ食べようか」

「うん」

フィリオが頷き、味噌汁に手をつける。

「今日買ったトウガラシ、なかなかパンチが効いてて美味しいね」

「そうなのか? どれどれ」

フィリオに続いてマサトも味噌汁へ口をつける。

「うおっ! 何だこれ! 舌が痛いっ」

マサトが味噌汁を口に入れた瞬間、舌に刺すような痛みを覚えた。マサトは跳ねるように洗面台へ向かい、流れる水で急ぎ舌を冷やす。その刺激は“辛い”を超え、すでに“痛い”の領域である。後から来る辛さ等ではなく、ダイレクトに辛い。いや、痛い。そういえば、今日、フィリオが宇宙だと味覚が鈍感になるからといって、激辛のトウガラシを大量に買っていたのを失念していた。

「ちょっと、入れすぎた?」

いえすぎらよいれすぎだよ!」

「えっ、なんて言ってるの?」

マサトは冷水で少し落ちつけた後、冷蔵庫の中にあるコーヒー牛乳を取り出し、痛みを和らげる。

「だから、入れすぎだって! 辛いもの好きにも限度があるだろ!」

「ごめん、ごめん。次から気をつけるよ。さあ、マサトがせっかく作ってくれた親子丼が冷めちゃうから、早くたべよ」

マサトはムスッとした表情で黙って席に付き、食事を再開する。フィリオは悪びれた様子も無く、赤い破片がたくさん乗った親子丼を食べている。

「うん、やっぱりマサトの作る親子丼は美味しいね」

笑顔で自分の作った料理を褒めるフィリオを見て、マサトは頬を緩めてしまう。慌てて怒った表情を取り繕うが、もう遅い。

「ほら、マサトもそんな顔してないで早く食べようよ」

「ああ。だけど、味噌汁は作り直すからな。あと、今日の片付けはフィルの担当だぞ」

マサトはフィリオに背を向け、お椀にお湯を注ぎなおした。

マサトは寝床の準備を整え、ベッドに潜り込む。あらかじめ、寝具の予備暖房を指示していたため、布団は心地よい温度になっている。さらさらとしたシーツの感触を楽しみながら、リラックスしていると、風呂場でのやり取りが頭に浮かぶ。

(今日はせっかくのチャンスだったのになぁ。でも、フィルの言った“好き”は俺が思ってる“好き”とはちょっと違うよう気もするし……)

フィリオのことを考えていると、フィリオの裸体が呼び起こされる。

(それにしても、フィルの裸、可愛かったな。あの体を抱きしめられたらなぁ)

マサトの思考に、当然、マサト自身も反応を示す。

(あっ、勃ってきちゃった)

親友をオカズにすることに多少の罪悪感を感じつつ、すっかり硬くなったモノを元に戻すべくマサトは服を脱ぎ始める。

マサトは硬くなった自分の牡を手のひらでやさしく包んだ。完全に剥けていない包皮はから顔を出した先端からはすでに雫が滲んでいる。目を閉じて親友の体を胸に描く。

(ああ……フィル……好きだよぉぉ)

マサトは自分の想いを心の中で告白し、自分自身をゆっくりと手で扱き始める。滲んだ雫がクチュリと小さな音を立てた。

「ふぁっ……んんっ」

自分の手が敏感な部分に当たり、思わず声が出る。マサトは一瞬手を止め、声を出さないように注意しながら行為を続ける。

(フィルのからだ……とっても柔らかい……それに、いい匂い……)

間近に見た親友の裸体を思い浮かべ、クリーム色の毛皮に包まれたその体を自分が抱きしめるシーンを想像する。柔らかい毛の感触とボディソープの香り、そしてフィリオ自身が持つ匂い。フィリオはいったいどんな匂いがするんだろうか? きっと暖かい匂いがするはずだ。

「はぁ、はぁ」

時間が経つにつれ、扱く速度も上がり、自然と息も激しくなる。

――クチャ、クチュ、クチャ

鈴口からは先走りがとめどなく流れ出し、手の動きに合わせて粘着質の音を立てる。下腹部に集まっていた熱気が徐々に全身に広がり、マサトの体が汗ばんでくる。

(フィルも……こんな感じで……オナニー……してるのかな……)

幼少の記憶とは異なる親友の立派な性器。猛々しく勃ち上がったその性器を親友が懸命に扱く様子を思い描き、シュッシュッと自らも手をひたすら上下させる。

苦しそうに顔を歪めながら、マサトは喘ぐ。

「あうっ……くっ……はぁ……フィルぅ……」

すでに声が漏れるのも気にならなくなり、マサトは自分の行為に熱中する。マサトのソコは真っ赤な亀頭がすっかり露出し、自らの粘液に濡れてテラテラと光っている。汗ばんだ尻尾をクネクネと艶かしく動かし、空いた手で自らの体をまさぐる。

「きゃうっ! 気持ちいいっ……よ……フィルっ」

手がカリの裏側を刺激するたびに、鋭い快楽がマサトを襲う。もう限界が近いのか、マサトの翼が細かく痙攣している。シーツはマサトの体液でぐっしょりと濡れていた。

(フィルぅ……もう出ちゃうよぉ)

マサトの手が今までにない速度で激しく上下する。

「ああっ! フィル、フィルぅ! 大好きっ!」

親友の名を叫んだその瞬間、マサトの背を電撃が貫き、そそり立った牡から熱い白濁液がほとばしる。

――ビュル! ビュッ、ビュビュッ!

吐き出された白い塊が勢い良く飛び出し、自らの体を汚す。精を吐き出したマサトの体はぐったりと弛緩し、はあはあと息を切らしている。

少し落ち着いた後、自らが出した精液を手で確認し、自らのことを家族と言ってくれた親友のことを想う。

(ごめん。フィル……お前でこんなことしちゃった……)

今まで自分が貪った快楽への反動からか、自分を責める気持ちが止まらない。マサトは目に涙を浮かべ、親友に対する謝罪の言葉を吐き出す。

「ううっ……ホントにごめんよぉ……」

ドアの向こう側を人影が横切ったが、むせび泣くマサトは気付かない。

――ドン! ドン! ドン!

次の日の朝、マサトの部屋のドアが壊れるくらいに強く叩かれる。

「マサト! 朝だよ、早く起きて!」

突然の轟音に飛び起きたマサトは、慌てて目覚まし時計を見た。まだ朝の七時である。しかも、今日は休日のはずだ。マサトがフィリオを起こすことは良くあっても、逆は珍しい。

「うーん……何だよフィル。今日は休みだろ」

「明日から実習なんだし、生活リズムを保たないといけないでしょ! それに、僕がせっかく朝ご飯作ってあげたんだから、早く食べてよ」

普段は生活リズムなど無いくせに、いまさら何を言っているのだろうと思いつつ、マサトは自分の体の異変に気付く。

(そういや、昨日の処理、ちゃんとしてなかったな)

腹の毛皮に付いた精液が白い固まりになっている。また、泣いたまま寝てしまったのか、顔にも引き攣った感触がある。いずれにしても、このままフィリオに会う訳にはいかない。

「分かったよ。シャワー浴びたらすぐ行くから、キッチンで待ってて!」

フィリオが戻る足音を確認してから、着替えを手に取り、風呂場へ向かう。

服を脱いだマサトはタッチセンサに手を触れ、熱いシャワーを浴びる。汚れた体を出来るだけ時間をかけてじっくりと洗い流す。上半身全体に広がった汚れが昨晩の荒れ様を物語っていた。

自慰の対象にしてしまった親友に会うのは気まずい。かといって、いつまでもシャワーを浴びているわけにも行かず、汚れが落ちたのを再度確認して風呂場を出る。

「おはよう、マサト」

「ああ、おはよう。お前が早起きするなんて珍しいな」

いつもと変わらない様子のフィリオを見て、マサトはなんとなく安心する。変わらないのは当たり前なのだが。

「うん。明日から実習だし、気合入れようかなと思って」

テーブルの上に並べられたフレンチ・トーストやハムエッグ、サラダがマサトの目に入る。普段見慣れている“焼け焦げた元パン”や“卵焼きのような赤いもの”とは違い、美味しそうな外見におやっと思う。

「おっ。なんか今日はまともだな」

「たまには、地味なマサトにあった食事を作って見ようかなと思ってね」

フィリオは腕を組み、翼を広げて偉そうに答える。

シンクに山のように積んである食材を不思議に思ったマサトは、ポケット中のPDAでこっそり通信履歴を見てみる。予想通り、朝食のレシピがヒットした。履歴を隠そうとした痕跡があるが、その方法は単純で、コンピュータの操作に慣れたマサトにはすぐ分かる。おそらく、家族用のレシピを見ながら作ったため、食材があまったのだろう。メニューも甘いものが好きなマサトに合わせて、フレンチ・トーストを選んだようだ。

「あっ、ありがとう。フィル」

「どういたしまして。なんか今日は珍しく素直だね」

自分も素直じゃないくせにと思いながら、マサトはテーブルに着く。フィリオはマサトのグラスにオレンジジュースを注ぎ、フォークを手に取る。

「じゃ、おあがりなさい」

マサトは恐る恐るフレンチ・トーストに手を伸ばす。フィリオの作る食事は実際に確認するまで油断できない。しかし、フレンチ・トーストを口にしたマサトは、やわらかく、ふわふわとした食感に驚かされた。マサトはもう少し甘いほうが好きだが、十分に旨い。

「フィル、これ美味しいよ! いったい、今日はどうしたんだ?」

「どうしたんだとは失礼だね。だから、僕はやれば出来るんだって」

口を尖らせつつも、フィリオの尻尾は嬉しそうに揺れている。他の料理も確かに美味しい。ちゃんとレシピ通りに作ったのだろう。いつもはフィリオが自分なりのアレンジを加えてしまい、ひどい結果になる。事あるたびに文句を言ってきたマサトの努力がようやく報われたようだ。

マサトが機嫌よく食事を続けていると、ふとフィリオが声を掛けた。

「そういえば、マサト。昨日の夜、なんかあった?」

その問いかけには思い切り心あたりがある。

「なんかって……なによ?」

意味の無い返答が口に出る。

「昨日、トイレ行こうと思ったら、マサトの泣き声が聞こえたから……」

どうやら、最後に泣いていたところを聞かれたらしい。だから、マサトを心配してわざわざ朝ご飯を作ってくれたのだろう。フィリオの気遣いに胸がカッと熱くなる。そんなフィリオを性欲の捌け口にしてしまったことを本当に申し訳なく思う。

「いや、ネットでちょっと泣ける話を読んでたからさ。別に心配ないよ」

自分を心配してくれた親友に嘘を吐く罪悪感に責め苛まれながら、マサトは伏し目がちに答える。

「そっか。うん。それならいいんだけどね」

フィリオが笑顔で答える。しかし、マサトの目にはフィリオが力なく肩を落としたように見えた。

(ごめん。フィル。でも、今はまだ勇気がないよ……)

今しばらく、マサトの思い悩む日々は続きそうだ。

つづく

登場人物 =とじる=

空木雅人(ウツギ マサト)

スカイ・ドラゴンの♂16歳。私生活では、几帳面な性格で料理、家事を良くこなしてフィリオをリードする。親友のフィリオに対し、想いを寄せている。

フィリオ=ユーレ

エア・ドラゴンの♂16歳。普段はしっかり者で通っているが、私生活はかなりルーズ。生活力は無い。料理は下手ではないが、かなりのチャレンジャー。