オリエンテーションを済ませた帰り道、綺麗な女性と話をする宿森先生を発見する。そして二人の間には子供が!?三歳にしてほむらのメンテナンスを担当するAIバクとの交流を深めた四人はいよいよ初の実習に挑む!
~2069年11月~
一行は到着ゲートで宿森先生を待っていた。予定よりも二十分は遅れている。フィリオが準備運動をするように体を伸ばす。
「遅いね、先生。一緒に到着したはずなのに、何でだろ?」
言うと同時に、フィリオが勢いよく壁を蹴って、空中へと飛び出した。どうやら、翼を使った方向転換を試そうとしたみたいだ。しかし努力の甲斐なく、フィリオの体はくるくると回転し始める。飛び出した勢いのまま、一直線にマサトのほうへ突っ込んで来た。
「あっ、あれ? やばい! マサト、避けて!」
フィリオがマサトへ激突する。
「痛っ! おいフィル、気をつけろよ!」
顔をしかめるマサト。今度は二人一緒に回転し始めたが、マサトが翼と尻尾を器用に操って、トルクを打ち消した。無重力になったとはいえ、質量は変わらない。重力という支えがなくなった分、逆に体を動かすのは難しくなる。その状況で、体を上手く操れるのは、運動神経が優れている証拠である。
「ごっ、ごめん。急に止まるの難しくってさ」
「まあ、いいけど。次から気をつけろよ」
マサトは壁の取っ手をつかんで体を固定する。無重力に慣れていない乗客がよく訪れる到着ゲートには、各所に体を固定するための取っ手が用意され、怪我をする可能性がある出っ張りにはすべてカバーが掛けられている。
マサト達が一息ついたとき、PDAを操作していたサトルがマサトたちに声を掛けた。
「ねえ、僕たちだけで会場へ向かうことになったみたいだよ」
視界の端では、宿森先生からのメッセージが届いたことを示す表示が点滅している。マサトはそのメッセージを開いた。
〈送信者:宿森隼人
件名 :実習初日ついて
本文 :皆さん、おはようございます。宿森です。突然のことで、申し訳ないのですが、急な用事ができてしまい、到着ゲートに行くことができなくなりました。皆さんには自力でオリエンテーション会場へ向かってもらわないといけません。行き方は簡単で、近くにリンク・ステーションがあるはずなので、そこで場所を伝えれば、自動的に連れて行ってくれます。もし分からないことがあったら、私に連絡してください。それでは、よろしく。〉
「……どうやら、そうみたいだな。どうする、フィル?」
「まあ、会場に向かうしかないよね。ええっと、リンク・ステーションって何処にあるんだろ?」
同じくメッセージを確認し終えたらしいリズが顔を上げる。
「なあ、フィリオ。荷物ってどうなってるんだ? 取りに行かなくていいのか?」
「ちょっと待って、それも確認するから……。ええっと、リンク・ステーションは向こうにあるみたいだね。あと、荷物は僕達の部屋に直接持っていってくれてるみたいだよ」
ほむらの各施設間はリンク・チューブと呼ばれる交通機関によって接続されている。その名の通り、チューブ状の管がほむら中に張り巡らされており、その中を四人乗りの車両が走ることで各施設を結んでいる。慣れない者にとって、無重力での移動は神経を使うため、乗るだけで目的地に連れて行ってくれるチューブは非常に有り難い。
マサトたちは到着ゲート近くのリンク・ステーションでチューブに乗り込み、会場へと向かった。
会場にはすでに学生が集まっている。どうやら、マサトたちのグループが最後だったようだ。会場の広さはかなり小さな映画館といった程度だ。対して、学生の人数は約八十人。無重力のため、そんなに狭くは感じないが、地上であればかなり窮屈であろう。
マサト達が椅子に体を固定する。PDAには今日のオリエンテーションの資料が転送された。マサトはその資料をちらちらと流し読みする。
レジュメを読み終えたくらいで、指導教官が到着する。本来であれば、学生八十人に対して、指導教官は二十人くらいいるはずだが、会場には五人しかいない。宿森先生の姿も見当たらないようだ。忙しいのだろうか?
イエイヌ種の先生が演台に立ち、話し始める。
「えー、はい。皆さん、無事到着されたみたいですね。静止軌道ステーションほむらへようこそ。これから、いよいよ実習スタートとなりますが、今からその実習について、簡単なオリエンテーションを行います」
先生とは言っても、本職はエンジニアである。必要なこと意外はあまり話さない。テンポよくオリエンテーションが進む。ほむらの説明と実習概要の説明が終わったところで、ほむらのセンター長が紹介された。センター長はラビット種の初老女性である。赤い髪の毛には何本か白髪が混じっているが、制服をきちっと着込み、いかにも仕事の出来そうな雰囲気を醸し出している。センター長の姿を見たリズが小声でサトルに尋ねた。
「なあ、サトル。あの人ってお前のおばあさんだろ。なんか厳しそうな人だけど、怖いのか?」
「うーん……怒らせると怖いかも。僕も子供のころはよく怒られたなぁ。でも、普段はとっても優しいよ。いつでも忙しそうだから、あんまり会えないんだけどね」
サトルがリズの腕をちょんちょんと突いて、演台のほうを指差す。
「ほら、リズ君。ちゃんと話聞いとかないと、目をつけられちゃうかもしれないよ。多分リズ君はよく話題になってるだろうし」
リズはあわてて前を向いた。サトルの祖母は無駄のない動きで演台へと移動する。センター長ともなると、無重力での移動も慣れたものである。
「みなさん。はじめまして。ほむらのセンター長を任されております、結城葵と申します。本来であれば、担当教官全員でご挨拶するのが筋なのでしょうけど、職場に近寄ってしまったことで、呼び出しに遭うものが続出してしまいまして……。少人数でのお迎えとなってしまいました。ごめんなさいね。かく言う私も、突然の会議に呼ばれてしまって、到着が遅れてしまいました」
センター長は軽く頭を下げた。
「皆さんのように優秀な方々が、私どもをお手伝いしてくれると、非常に助かるのですが……。無事、卒業した際にはこのほむらを是非、就職先として選んで下さいね」
手のひらを頬に当て、茶目っ気のある笑顔を浮かべている。その笑顔は、何処と無く、人を引き付ける魅力を持っている。
「とまあ、宣伝はこれくらいにしておきましょう。それでは……」
センター長は手馴れた様子で挨拶を続ける。センター長に任じられるだけあり、話の内容だけではなく、口調や仕草などにカリスマ性が表れている。現場の経験も長いらしく、実習生には非常にためになる話を聞くことが出来た。マサトは、こんな人の下で働けたら、きっとやりがいが有るだろうなと思う。宿森先生を見ている限り、忙しそうではあるが。
センター長の挨拶が終わった後は、各演習の計画が説明された。初演習は四日後になるらしい。具体的な演習の説明になると、フィリオが何度か質問していた。大人数を前にしても臆せずにどんどん発言するフィリオを見て、マサトはいつも感心する。自分には絶対に真似できないとも思う。
オリエンテーション終了後は、各自自室へと向かうことになった。実習生が生活するのは今いる無重力区画ではなく、一G人工重力区画である。人工重力区画は直径約四キロメートルの巨大なドーナツ型をしており、一分半で一周することで擬似重力を作り出している。そこにはほむらの職員や各種研究機関の研究者だけではなく、無重力を利用した新材料製造企業、月や小惑星帯へと向かう資源開発企業・団体関係者など約四万人が暮らしている。生活に必要なもののほか、娯楽施設なども完備されており、同規模の地上の都市と比べるとかなり活気づいた場所である。
「うおっ、すげえなぁ……。あそこって、どうなってんだろ?」
マサトが無重力区画と一G区画の接合部を指差す。どうやら、接合部もドーナツ状になっているようだ。一G区画のドーナツの内側に、もう一つ小さなドーナツがあることになる。マサト達が今いるのは、一G区画へと向かうチューブの中。つまり、丸いドーナツから伸びているスポークの中である。
「マサト、何か変なとこでもあったの?」
フィリオがマサトが指差したほうをみて尋ねる。
「だってさ、一G区画はもちろん回転してるだろ? でも、いままでいた無重力区画は回転してないよな? ってことは、どこかにそれを繋ぐ場所があるはずだろ? チューブの中は与圧されてるみたいだったから、空気を漏らさないでどうやって繋いでんだろって思ってさ」
うーんと頭を捻るマサトをリズがばしっと叩く。
「相変わらず、マサトは細かい奴だな~。そんなの、繋がってるんだからいいじゃん」
「まあ、そこがマサトのいいところなんだけどね」
珍しくマサトをフォローするフィリオ。そのとき、今まで黙ってPDAを弄っていたサトルが顔を上げた。
「ええっと、あそこの内側のドーナツなんだけど、あそこの中は二重構造になっていて、途中にエアロックがあるみたい。接合部は真空になってるみたいだよ。資料、転送するね」
どうやら、ずっと検索していたようだ。サトルもマサトと同じく、機械が好きらしい。
「おっ、さっすがサトル。ありがと! へぇ、こうなってんのかぁ……」
「サトル君も結構まめだよね」
そうやって、わいわいと会話を楽しんでいた一行にだんだんと重力が帰って来る。体に感じる重さが、地上と同じになった頃、目的地へ到着した。
「ううっ、体が重いよお」
「なに言ってんだよ、フィル。無重力だったの、たった一日だけだろ」
「僕はマサトと違って、繊細にできてるんだよ。あっ! あれって、宿森先生じゃない? 隣にいるの、彼女さんかな?」
リズが興味津々な様子で、フィリオが指差した方をきょろきょろと探す。フィリオが指差した先には、宿森先生とホワイトタイガー種の女性が見える。マサト達に背を向けているため、顔は分からないが、背は宿森先生と同じくらい高く、スレンダーな体型をしている。服装はびしっとしたスーツで決めており、やり手のキャリアウーマンといった装いである。また、その二人の後ろには小さな子供の姿も見える。
「おっ、あれか? 結構キレイそうじゃん。宿森先生って、大人しそうなのに、結構やるなあ」
サトルが声を潜め、みんなに問いかける。
「ねえねえ、あの子って、もしかして、二人の子供かな?」
その子供は、頭からクリスタルの角を二本生やし、背中には大きな翼を四枚持っている。体に不釣合いな大きさだ。マサトはその子をじっと見つめ、うーんと首を傾げる。
「宿森先生が結婚してるなんて、聞いたことないぞ。それに、あの子って二人に全然似てないし。っていうか、あの子って種族何なんだろ?」
色々と推測を張り巡らして四人がこそこそと盛り上がっていると、宿森先生がこちらに気付いたらしい。横の女性と子供を連れ添って、手を振りながらマサト達の方へとやって来る。
「おお、ユーレ君たちじゃないか。今日は突然、君達をほったらかしにしてしまって申し訳ない。いきなりコイツに呼び出されてしまってね」
宿森先生が頭を掻きながら、隣にいる女性を指差す。
「ちょっとハヤト、〝コイツ〟はないでしょ」
指差された女性は一瞬、宿森先生をキッと睨んだようだが、直ぐに笑顔を取り戻してマサト達に話しかける。目つきの悪さは宿森先生に良く似ている。
「初めまして、私は岸谷遼子って言います。君達って、ハヤトが担当してる実習生よね? 何時もハヤトがお世話になってます」
リョウコが優雅にお辞儀する。
「初めまして。僕はフィリオ=ユーレです。で、彼が結城悟君。こっちがリズ=オルシーニ君と空木雅人って言います。何時も、先生に迷惑かけちゃってて申し訳ないです」
フィリオもお辞儀を返し、マサト達を紹介する。同じく丁寧にお辞儀するサトルに責付かれ、マサトとリズもぎこちなく挨拶した。
「君がユーレ君ね。確かに、年に似合わず、しっかりしてるわね。何時もハヤトから聞いてるわよ」
「いえいえ、周りが頼りないやつばかりなんで、そう見えるだけですよ。それにしても、リョウコさんってお綺麗ですね。もしかして、先生の彼女さんなんですか?」
「まあ、そんなところね。私もほむらのエンジニアやってるの。今日はこの子の関係でちょっとトラブルがあって、ハヤトに来て貰ったのよ」
リョウコは横にいる子供の頭を撫でる。
「ええっと、その子は? 二人のお子さん……じゃないですよね?」
「この子はほむらのAIなの。もう少し正確に言うと、AIの生体端末ね」
その言葉を聞いて、一同は子供に目を向ける。AIは世界で既に何体か誕生しているが、まだまだその存在は珍しい。もちろん、マサト達がAIに出会うのも初めてだ。
「僕はバクって言います。初めまして」
バクがぺこりとお辞儀をした。AIと聞いて、マサトはなんとなく人間離れした声を想像したが、その声は人間の子供そのものである。
「へぇ、バク君って、AIなんだ。全然そうは見えないね」
バクはフィリオをちょこんと見上げる。仕草も人間の子供そのものである。
「いつもこの体で暮らしてるからかな? 僕の本体はほむらのハイブリッド・コンピュータにあるんだ。一応、ほむらのメンテナンスもしてるんだよ」
バクが胸を張った。
「この子は三年前にほむらで誕生したの。私が設計した有機素子と光学素子のハイブリッド・コンピュータと、この生体端末の中でね」
リョウコがバクを体に引き寄せ、誇らしげに語った。その言葉を聞いたマサト達は、へえっと感心の声を上げる。そういえば、過去にほむらでAIを生み出すことに成功したというニュースが流れたことがある。確か、コンピュータの構造に特徴があったはずだ。
「リョウコさん、凄いですね! こんな可愛いAIを創っちゃうなんて!」
サトルが珍しく興奮している。コンピュータと聞くと、我慢できないようだ。目を輝かせてバクに尋ねる。
「バク君って、やっぱりほむら中の機械を制御してるの?」
「ううん。僕が管理してるのは、まだちょっとだけだよ。僕もまだ勉強中なんだ。お父さんとお母さんに色々習ってるの」
バクがハヤトとリョウコを交互に見ながら言う。お父さんとお母さんとは、二人のことを言っているらしい。ハヤトがバクの頭の上にぽんと手を乗せる。
「バクはAIとは言っても、生まれたばっかりだからね。生体端末も大部分は僕達と同じなんだよ」
「そうなんですか? でも、AIってあこがれるなぁ。バク君、がんばってね!」
「うん。有難う! サトルさん!」
バクが曇りない笑顔を浮かべる。
「ねえバク君、ちょっと触ってもいい?」
マサトがしゃがみこんでバクと目線を合わせ、大きな翼を指差す。
「えっ? 良いけど、気をつけてね。ちょっと熱いから」
翼をそっと触るマサト。火傷するほどではないが、体温と比べるとかなり熱い。
「この翼ってどんな役割があるの?」
「翼で電力を受け取ってるの。ラジエータにもなってるんだよ」
「へぇ、それは凄いね! じゃあ、この格好いい角は?」
サトルに負けず劣らず、マサトもバクの体に関心を持っているらしい。
「へへ、良いでしょ! この角は本体との通信用なんだ」
バクが自慢げに胸を張って答える。自分でも気に入っているようである。
「ちょっと皆、そんなに質問攻めにしちゃ、バク君が可哀相でしょ!」
バクを取り囲む面々をフィリオが制する。
「すいません、宿森先生」
「いや、いいんだよ。バクにも友達が居たほうがいいしね。な、リョウコ」
「ええ、もちろんよ。その方がバクの為にもなるし。皆さんが仲良くしてくれたら、私も嬉しいわ」
バクを間に挟んで答えるその姿は、まるで本当の家族のようだ。
その後もバクを話題の中心に一行は盛り上がった。数分後、リョウコがPDAを取り出す。メッセージが届いたらしい。表情から察すると、あまり良い内容ではなさそうだ。
「ああ、もう! そろそろ仕事に戻らないといけないみたいだわ。ほら、ハヤトにも呼び出し掛かってるみたいよ」
リョウコがハヤトの腕をぽんぽんと叩く。
「ほんとだ。仕方ないな……。皆、今日はありがとう。本当はゆっくりしたいんだけど、どうも急がないといけないみたいなんだ」
メッセージを確認したハヤトが、顔を曇らせる。今まで、マサト達とプライベートで交流できる機会がほとんど無かったため、名残惜しいのだろう。
「皆さん、これからの実習、頑張ってね。もし分からないことがあったら、ハヤトにどんどん質問しちゃっていいから」
リョウコが片目をつぶる。最後にバクが元気よく手を振り、別れの挨拶をした。
「みんな、バイバイ! これから、よろしくね~」
「バク君、可愛かったね。リョウコさんもキレイだったし。それに比べて、このメンバーは……」
三人を見送ったあと、フィリオがはあっとため息を吐く。
「なっ、何だよ、フィル。なんか文句あんのか?」
「いや、なんでもないよ、マサト。じゃあ、今日はこれで解散にしよっか。もうちょっと見て回りたいけど、明日から本番だし」
フィリオがぽんと膝を叩いた。
「そうだね。結構今日も色々あったから、疲れちゃったし。僕とリズ君は向こうみたいだから、ここでお別れだね」
「そっか。俺とフィルは逆のブロックか。同じグループなのに、全然違う場所にあるってのが不思議だな。じゃあ、リズ、明日は遅れんなよ!」
「わっ、分かってるよ。じゃあな、マサト、フィリオ」
リズ達と別れ、自室へと向かう道中、フィリオがマサトへ話しかけた。
「ねえ、マサト。ちょっと付き合って貰っても良いかな?」
マサトは最近、フィリオにこうやって誘われるたびに淡い期待を抱いてしまう。もちろん、その期待通りにはならないのだが。
「何だよ、フィル。あらたまって」
「ちょっとマサトに相談したいことがあってね。部屋に戻ってもまだ何にもないから、ご飯食べて帰ろうよ」
実習生が暮らす家は基本的にワンルームマンションとなっている。実習生自体の数がまだそれほど多くなく、使用する時期も短いので、寮を維持すると逆にコストが掛かるためだ。また、ほむらは宇宙へ向かう中間地点という性質上、短期滞在者のための宿泊施設が豊富にあり、数ヶ月であれば安くワンルームマンションを借りることができるという点も大きい。
マサト達は近くにあったファミレスへ入った。地上にもあるチェーン店である。料理とドリンクバーを注文し、一息つく。
「で、何なんだ? 相談って」
「うん、これからのことなんだけどね」
その言葉を聴いて、マサトはやはりと思う。自分のことに関してはさほど頑張らないフィリオだが、ことグループ活動となると、俄然やる気を見せはじめる。それでいて、その努力を人に知られるのが嫌なようで、相談相手は何時もマサト一人である。マサトはそんな親友を尊敬すると共に、心配もしている。責任感が人一倍強く、頑張りすぎるきらいがあるためである。
「今度の実技演習のことだろ?」
「さすが、マサト。分かってるね。その演習なんだけどさ、やるからには、やっぱり完璧にしたいんだよね。ライバルもできたことだし」
フィリオが握ったこぶしをもう片方の手で覆う。なかなか気合が入っているようだ。
「やっぱり、あのこと気にしてたんだな」
「そりゃあね。あんなこと言われたら、こっちとしても負けるわけにはいかないよ。そのためには、ちゃんと準備しないとね」
コトネの前では、そんな様子をちらりとも見せなかったが、ライバル宣言されたからには、それなりの対応をしようとずっと思っていたらしい。かなり負けず嫌いな性格をしているのだ。
「フィルらしいな。だから、オリエンテーションであんなに質問してたのか?」
「まあ、それもあるね。マサトなら、あれだけの情報があれば、どんな演習かある程度は想像付くでしょ?」
オリエンテーションでは、演習で何が行われるかは明らかにされなかった。最初の実技演習では、基本的な知識や技能を応用することがいかに難しいかを、身をもって体験させたいらしい。復習を促すことも目的の一つなのだろう。積極的な情報収集も期待されているのかも知れない。そのため、当日になるまでは具体的な演習内容は知らされない。
フィリオの問いかけに、マサトは少しの間考えを巡らす。
「そうだなぁ……、宇宙空間で初めに学んで貰いたいことを体験させるって言ってたから、多分、火災がテーマになるんじゃないかな」
その答えに、フィリオが首を傾げた。予想外の回答だったらしい。
「どうして? 気密漏れとかじゃないの?」
「確かに、気密漏れも危険だけど、火災に関しては対処方法が肝心だからな。気密漏れは単純に言うと、穴を塞ぐだけだろ? 火災の場合は何が燃えてるのか、どこで燃えてるのか、どうすれば被害を最小限に食い止められるかをしっかり理解する必要があるじゃん。演習のテーマにもってこいだよ」
マサトは手元のオレンジジュースで水分を補給し、先を続ける。
「それに、フィリオが〝宇宙で初めて経験することなのか〟って質問したときの先生の答え、覚えてるか?」
「ええっと、その時って、なんだかはっきりしない答えが返ってきたんだよね。地上でもあるけど、宇宙ではまたちょっと違うとか言ってた気がするなぁ」
あごに手を当て、うーんと唸るフィリオ。その回答に納得してないらしい。その様子をみたマサトは、待ってましたとばかりに一気に捲し立てる。
「そう、それなんだけど、多分、低重力環境だと、物の燃え方が地上と違うってことを意味してると思うんだ。事前実習で、なぜか可燃物の取り扱い演習があっただろ? 講義だけでもいいはずなのに、わざわざ風洞実験までやったじゃん。多分、今回の演習と繋がってるんだよ」
マサトは自信満々に人差し指を立ててフィリオに説明する。フィリオは眉間にしわを寄せて考え込んだ後、うんうんと頷いた。マサトの説明に満足したようだ。
「うん、確かにそうかも。さすがマサトだね。凄い説得力あるよ。ありがと」
フィリオはマサトに笑顔を送った後、すぐにあれやこれやと今後の方針を計画し始めた。興奮しているのか、姿勢を盛んに変え、尻尾を左右に揺らしている。よほど集中しているようで、前にいるマサトは完全に目に入っていない。マサトは詰まらなさそうな表情で、オレンジジュースを啜る。
数分後、考えがまとまったのか、フィリオが顔を上げる。
「よし! じゃあ、マサトは事前実習でやった可燃物とか、危険物の勉強ね。サトル君はやっぱり、火災対策関係のシステム調査かな。コンピュータ得意だし。リズ君はどうしよう……。そうだ、消火装置の勉強をしといてもらおう」
フィリオは息を吐く暇も与えず、一方的に説明を続ける。
「トラブル対応の基本は、早期発見、適切な判断、迅速な行動だから、まずサトル君に火災を見つけてもらって、マサトが原因の特定する。で、僕が対策を考えて、リズ君に動いてもらうと。ほら、完璧じゃない?」
フィリオは自分の計画に満足したのか、尻尾を自慢げに立て、マサトの反応を待つ。
「うん。それでいいんじゃないか」
マサトもフィリオに同意する。皆の得意分野が良く考慮されており、各人の動きも明確だ。当日にどんな状況で演習が行われるかはまだ分からないが、対処方法はさほど変わらないだろう。
「でしょ? じゃあ、明日は授業が終わった後に、ミーティングを開かないと。あー、なんだか、楽しみになってきたね!」
「ああ。そうだな」
明るい笑顔で答えるマサト。その時、フィリオが急に声を潜めた。
「ただ、マサトの推測が当たってるとしてだけどね……」
マサトの顔を疑いの眼差しで見つめる。改めて指摘されると、マサトは自信が無くなってきた。フィリオがこんなに楽しそうなのに、もし、自分の推測が外れていたら、どうしようか? 考えれば考えるほど、不安が広がる。
マサトが情けない顔つきで黙っていると、フィリオが両手でマサトの握り締めた拳をそっと包む。
「でも、僕はマサトを信じてるよ。もしマサトの予想が外れてても、こうやって相談に乗ってくれただけで十分だしね。それに、マサトが一生懸命に考えてくれたんだから、きっと当たってるよ!」
驚いたマサトは尻尾をぴくっと震わせ、その手を見つめた。
「だから、その緩んだ顔、何とかしてよ! これから、マサトに頑張ってもらわないといけないんだから」
「おっ、おう。ごめん」
マサトは急いで手を引っ込め、ぽりぽりと頭を掻いた。フィリオの手の感触がまだ残っている。
「……ところで、これから俺が頑張ることってなに?」
「だからぁ、演習の勉強だよ。それと、僕が知っておいたほうが良い事もついでにまとめといてね。後で、マサトに教えてもらうから」
マサトは再びオレンジジュースを口に入れ、頭の中でその言葉が意味することを考えた。
「おいフィル、それってどういう……」
「そのまんまの意味だよ。マサトなら分かるよね?」
フィリオが少し頭を斜めにし、満面の笑みでマサトを見つめる。
(やっぱり、フィリオには敵わないよなぁ)
マサトは黙ってこくりと頷いた。
マサトとフィリオの会合が開かれた翌日、リズ、サトルにも召集が掛かった。
「フィリオ、何だよ急に呼び出して。今日はゆっくり見学しようと思ってたのに」
リズは不機嫌そうに口を尖らせている。隣にいるサトルが、なだめる様にリズの肩を撫でる。
「まあまあ、先は長いんだし、一日くらいいいじゃない。フィリオ君、次の演習のことだよね?」
腕を組んだフィリオがサトルの言葉に満足げに頷いた。
「うん。そのとおりだよ」
そう言うとフィリオはカバンの中から〝課題書〟と書かれた紙を取り出し、リズとサトルに手渡す。昨晩フィリオが作成した、演習までにやっておくことが書かれた計画書である。フィリオがどうしてもプリントアウトしたいと言うので、マサトは夜中に町を歩き回って、印刷サービスをしているコンビニを見つけてきた。
サトルが渡された紙をぺらぺらと捲る。
「へぇ、もうこんなに出来てるんだ。フィリオ君、凄いね! でも、演習の内容って発表されてないのに何でこんなに詳しく書かれてるの? もしかして、宿森先生にこっそり聞いたとか?」
リズも唸りながら計画書を読む。
「宿森先生は真面目だから、絶対そんなの教えてくれるわけないって。それにしてもフィリオ、ホントに何でこんなに具体的なんだ?」
そのとき、マサトが一歩前に出て体を大げさに揺らし、悩む二人に無言で自分をアピールした。
「分かったよ、マサト。お前なんだろ? これ考えたの」
「さっすがリズ。きっと気付いてくれると思ってたよ」
マサトがリズに飛びついて肩を組んだ。フィリオは苦笑いを浮かべ、マサトの体を両手で押し、リズもまとめて後ろへ下がらせた。
「マサト、そんな分かりやすいアピールはいいから。そう、これはマサトが考えてくれたアイディアを基に書いたものだよ。まあ、中身はほとんど僕が書いたんだけどね。四日後の演習までの課題をそこに書いたから、ちゃんと勉強しといてね」
計画書をじっくりと読んだサトルがフィリオへ質問する。
「フィリオ君、僕は普通の火災対策システムを調べればいいの?」
「うん。でも、演習はほむらでやるんだし、ほむらのシステムを勉強して貰えると有り難いかな」
フィリオは何か思いついたのか、手をぽんと叩いた。
「そうだ! バク君に聞いてみるのってどうかな? なんたって、バク君はほむらのAIなんだし」
その提案にサトルは目を輝かせる。
「それ、いいね! バク君なら色々知ってるよね。でも、どうやって聞けばいいのかな?」
「僕が宿森先生に頼んでみるよ。リョウコさんに言えば、何とかなりそうだし」
「ありがとう、フィリオ君! 僕、バク君にいろいろ聞いてくるよ!」
フィリオの両手をつかみ、上下に大きく揺さぶる。バクと会えるのがよほど楽しみなのだろう、耳をピンと伸ばしている。
「うっ、うん。分かったよ、サトル君」
サトルの剣幕に、さすがのフィリオも押されぎみである。その二人の背後ではマサトとリズがこそこそと話をしている。
「おい、マサト。これ、ホントに全部やんのか? めちゃめちゃ多いんだけど……」
「まあ……、そういうことだな」
「そういうことだなって……、本気か?」
マサトはリズの両肩をがっしりと掴み、頭を下げる。
「諦めろ、リズ。フィルが言ってるんだから、やるしかないよ。ほら、俺もこんなにいっぱいあるんだ」
リズに自分の課題書を見せるマサト。その課題書をみたリズは目を丸くする。
「こんなにあるのか。お前も大変だな……」
マサトは背後にフィリオの視線を感じたが、リズを肘で小突きながら話を続ける。
「リズ、フィルはもっと頑張ってんだし、協力してくれよ。それにさ、お前もいい結果出したいだろ?」
「まあな。コトネ達には負けたくないし。フィリオにはいつも迷惑かけてるしなぁ」
こそこそと相談する二人に堪りかねたのか、フィリオがマサト達に詰め寄る。
「ねえマサト、それにリズ君。なにか質問あるの?」
二人は上半身を反らし、慌てて弁解する。
「いや、フィル、なんでもないって。リズが頑張りたいんだってさ。な、リズ?」
「そうそう。二人で頑張ろうって言ってたんだよ。ほら、こことか俺の得意分野だし」
リズがワザとらしく目を見開いて、課題書を指差す。
「まあ、それなら良いや。じゃあ、早速今日からしっかり勉強してよね。演習まであと四日しかないんだから。まあ、リズ君はやれば出来る子だって信じてるから」
「まあ、機械のことなら任せとけって。なあ、サトル。バクに会えたら、消火装置のマニュアルとか手に入るか聞いてみてくれるか?」
リズは言っているうちに、自然と乗り気になってきたらしい。フィリオやサトルに情報を手に入れる方法を色々と聞いている。演習対策についてわいわいと盛り上がる皆を見てマサトはふと思った。
(なんだかんだで、皆良い奴らだよな。父さん達もこんな感じだったのかな?)
マサトは自分の両親とフィリオの両親が、一緒に調査へ向かう姿を思い描いた。自分達と同じように、気の合う仲間と過ごす楽しい時間。そして、仲間と協力して物事を成し遂げる達成感。きっと、あの四人なら何でも出来ただろう。今の自分も、フィリオ達がいてくれれば、父親に負けない成果を上げられそうな気がする。
演習を翌日に控えた夜、マサトとフィリオは机に向かっていた。
「ねえマサト、これってどういうことかな? 何で宇宙機とか小型基地の火災センサとか消火装置って、こんなに偏ってるの? これだと、死角とかいっぱい出来ちゃいそうなんだけど」
フィリオが一般的な火災対策システムの機器配置図を睨む。マサトは人差し指を立てて、ヒントを出した。
「そうだなぁ、無重力だと大気循環が起こらないから、強制的にファンを使って循環させてるって習っただろ?」
人が生存するためには、酸素や二酸化炭素のバランスを常に適切な範囲に保ち、舞い上がるホコリや雑菌を定期的に除去する必要がある。そのためには、空気を循環させないといけない。また、空気を循環させることで温度や湿度を一定に保ち、快適に過ごすことが出来るようになる。地上では特に意識しないでも自然が勝手にやってくれるが、宇宙では何もかも人の手で行う必要がある。
「うん、確かそうだったね。だから、たとえ無重力でも空気の流れが出来て、地上よりも逆に燃え広がりやすくなるんだったっけ?」
うーんと唸って、考え込むフィリオ。配置図でファンの位置を確認し、空気の流れを指で辿る。フィリオが何かに気付いたのか、はっと頭を上げた。
「そっか! 分かったよ、マサト。空気の流れが一方通行になるから、燃える方向も大体決っちゃうんだね。だから、センサも偏ってるんだ」
マサトはフィリオの回答に大きく首を縦に振り、ぱちぱちと手を叩いた。
「正解! その通りだよ、フィル。ファンに近いところだと、一気に燃え広がっちゃう危険性があるから、対策もしっかりしてるんだ。それに、もし有毒ガスが発生したら、他のブロックに被害が出る可能性もあるから、ダクトにはガスセンサが付けられてるんだ。後は、ブロックごとに与圧できるようにもなってるしな」
「へぇ、そうなんだぁ。さっすが成績優秀者は違うね」
フィリオはマサトに感心しながら、さらにテキストを捲る。そんなフィリオを優しい眼差しで見つめながら、マサトは時刻を確認する。もう日が変わろうとしている。
「なあ、フィル。もうこんな時間だぜ。そろそろ寝ないか? 明日は本番なんだし、早く休んだほうが良いと思うぞ」
ここ数日間、夜遅くまでフィリオが起きていた痕跡があった。マサトが寝た後も、ずっと勉強していたのだろう。マサトは熱心に勉強を続ける親友が少し心配になった。
「ありがと、マサト。でも、僕はもうちょっと勉強するよ。マサトは先に寝といて良いよ。夜遅くまで付き合わせちゃって、ゴメンね」
「俺は大丈夫なんだけど、お前の体が心配だからさ。司令塔が疲れてたら、俺達が困っちゃうだろ? 分かんないところがあったら、俺がちゃんとフォローするからさ」
「でも、もうちょっと対策考えておきたいし……」
業を煮やしたマサトは、広げられたテキストをパタンと閉じる。
「だからぁ、俺達を信用しろって。心配しなくても大丈夫だから。ここ最近、ずっと夜遅いんだろ? 前の日くらいちゃんと寝たほうが良いって」
立ち上がってフィリオの翼を掴み、ベッドに向かわせようとするマサト。
「わっ、分かったから、そんなに引っ張らないでよ」
「じゃあ、寝るぞ。ほら、片付けは俺がやっておくから、歯磨いてこいよ」
フィリオを洗面台に急かす。
ようやくベッドに入った二人は電気を消した。その時、フィリオがマサトにつぶやく。
「ゴメンね、マサト。心配掛けちゃって」
「まっ、こういうとこ、フィルらしいよな。普段から勉強しとけばいいのに」
マサトが声に出して笑う。
「僕は本番で実力を出すタイプなんだよ」
親友が頬を膨らす光景が目に浮かぶ。〝本番で〟といいつつ、事前準備を欠かさないフィリオを可愛らしく思う。
「実力を出すのはいいけど、無理すんなよ!」
「うん。分かってるよ、マサト。明日はよろしくね。じゃあ、おやすみなさい」
「こっちこそよろしくな。おやすみ」
そして、待ちに待った演習の日がやってきた。演習が行われるのは無重力区画であるが、まずは普段の講義で使われる教室に集められる。その場には、ほむらに向かう道中でライバル宣言をしてきたコトネ達のグループもいる。コトネ、ミズホ姉妹に加えて、ハイイロオオカミ種の成瀬悠、良太兄弟も一緒のようだ。二人は双子で、しかも一卵性双生児のため、慣れないと見分けが付かない。見分けるポイントは、耳の傷である。ユウタのほうは左耳に傷があり、リョウタのほうは右耳に傷がある。ちなみにこの二人、真面目なのだが、かなり天然なところがあり、いつもミズホにからかわれているようだ。
フィリオがコトネに近づき、声を掛けた。
「おはよう。コトネさん。調子はどうですか?」
敵愾心は一切見せず、顔には笑みを浮かべている。
「あっ、おはよう。フィリオ君。まあ、調子の方はそこそこよ。あなた達の方はどうなのかしら?」
「僕達もまずまずですよ。そういえば、今日の演習ってどんなことするか知ってます? 先生達、何にも教えてくれなくって……」
フィリオの問いに、コトネは長く伸びたヒゲをピクリと動かす。フィリオとコトネの間にぱちぱちと火花が見えるようだ。
「そうなのよねぇ。私達も何も聞いてないわ。逆に、優秀なフィリオ君達なら、何か知ってるかと思ったんだけど……」
「いえいえ、情報収集ではコトネさんには敵わないですよ。まあ、噂くらいなら聞いたことありますけどね」
二人はお互いの腹を探り合うように会話を続ける。ピリピリとした雰囲気に、周囲が口を挟めないでいると、マサトより背の高いイーグル種の実習生が割り込んできた。フィリオ、コトネと同じグループリーダの一人、カイ=エンクである。ガッチリした体に加えて、鋭い嘴を持っており、近くにいるだけで圧迫感を感じる。
「まあまあ、二人とも。そんなに警戒しなくてもいいじゃないですか。別に競争するわけじゃないですし。それにほら、今日の演習って火災訓練なんでしょ? あの噂、本当みたいですよ」
内容は秘密といっても、真剣に隠そうとしている訳ではないため、直ぐに漏れる。一昨日には、演習内容が火災に関するものであることは、ほぼ確実な事実として皆に広がっていた。当然、フィリオやコトネもそのことは耳にしている。
マサトはほっとしてこの助け舟に乗ることにした。一刻も早くこの場を離れたい。
「ほら、フィル。やっぱりあの噂、本当なんだってさ。じゃあ、そういうことだから、向こうで対策立てようぜ」
こういう状況が苦手なマサトは、かなりぎこちない様子でフィリオを引っ張る。
「ええーっ、マサト君、もう行っちゃうの? 久しぶりなんだし、もっとゆっくりしようよ~」
いつの間にか傍に居たミズホがマサトに擦り寄る。まさにネコのようだ。
「ミっ、ミズホちゃん。久しぶりって、昨日も授業で一緒だったじゃない」
体を引いて、おろおろするマサト。顔は真っ赤になり、尻尾をばたばたと振り回している。そんなマサトを見て、リズが笑い出す。
「はははっ! マサト、動揺しすぎだろ。ミズホちゃんも、マサトからかうのその辺にしとけよ。コイツ、そういうのに慣れてないんだから」
リズにつられ、周りも笑い出す。緊張していた雰囲気が一気に解れた。
「ごめんなさい、フィリオ君。ミズホが変なことしちゃって」
「いえいえ、こっちこそごめん。マサトのほうこそ恥ずかしい姿見せちゃって……。まあ、火災演習で間違いなさそうなので、お互い頑張りましょう」
そう言うと、フィリオが片手を差し出した。その様子を見てリズがまた茶々を入れる。
「おっ、ライバル同士が握手か? 良い光景だな!」
フィリオが振り返ってリズを睨んだ。
「リズ君、夕食は期待しといてね」
凄みを利かせた声に怯んだリズは、ごまかすように乾いた笑い声を上げる。
その様子を見守っていたカイが、茶と黒の羽毛に覆われた大きな翼で、二人の間を取り持つようにフィリオとコトネの肩に触れる。
「仲直りしたところで、お二人さん。どうやら、リーダに招集が掛かってるみたいなんですよ。一緒に行きませんか?」
体に似合わない優しい声だ。声を掛けられた二人はカイを見上げた。小柄な二人とカイの間にはかなりの身長差があり、その様子はまるで子供と大人である。
「あっ、そうなんだ。教えてくれてありがとう、カイ君。じゃあ、行きましょっか、コトネさん」
「ええ」
三人がミーティングルームへ向かった後は、適当に談笑して過ごした。しかしマサトは、ミズホがずっと横に居たため、なかなか落ち着けなかった様子であった。
フィリオが帰ってきた後、グループ毎にわかれ、演習場のある無重力区画へと向かう。演習場には、小型宇宙機の模型がいくつか並んでいた。宇宙機は円筒や球、直方体で出来ており、飛行機のような流線型はしていない。宇宙では空気抵抗を考える必要が無いためである。演習用なので仕方ないのかも知れないが、かなり不恰好だ。ちなみに、演習場は全て与圧されている。真空での演習はまた別の場所で行うのだろう。
フィリオの案内で、そのうちの一つに入る。外見は円筒型だったが、通路は四角になっている。無重力では、上下がはっきりしないする四角のほうが落ち着くのだ。
マサト達はぶつからない様に注意しながら通路を進む。エアロックや機器制御室と書かれた部屋を通り過ぎ、中央司令室のドアを開けた。部屋の中には、制御卓やディスプレイが所狭しと並べられており、五人も入ればいっぱいになる。機器同士が多数のケーブルで接続され、機械もなんとなく古めかしい。演習施設であることも影響しているのだろうが、宇宙空間での故障は命取りになる。枯れた技術を使うことで、トラブルを減らし、故障の際にも直ぐに対処できるようにしているのだろう。
部屋の一番奥、ファイルやケーブルに囲まれた狭い空間に、マサト達の指導教官、ハヤトの姿が見えた。マサト達に気付いたハヤトは、ふわっと宙を漂って、四人に近づく。無重力での動きがまだ少しぎこちないマサト達と違って、動きに無駄がない。
「宿森先生、おはようございます」
「おはよう、ユーレ君。それに、皆も」
ハヤトが狭い入り口からマサト達を覗き込む。
「おっと、ここにいたら、皆が入れないな。私は定位置に戻るよ」
ハヤトは再び窮屈そうな場所へと舞い戻る。そこには席がないため、縞々の尻尾を使って体を上手く固定しているようだ。その様子を見たサトルが声を掛ける。
「先生、そんな狭いところで大丈夫ですか?」
「ははは、心配しなくてもいいよ。仕事ではいつも、こういうところを這いずり回ってるからね。君達もすぐなれるよ。狭そうに見えるけど、無重力だと思ったより広く使えるんだよ。さあ、とりあえず、皆部屋に入ってくれる? 機械にぶつからないように気をつけてね」
マサト達は苦労しながらも、何とか席に着き、足を引っ掛けて体を固定する。
「さて、皆入れたようだね。今日はいよいよ初演習。私は手出しできないことになってるので、見てるだけだけどね。君達なら普段どおりにやれば大丈夫だと思います。リョウコとバクも応援してるから、頑張って下さいね。じゃあ、これから演習に入るけど、その前に質問あるかな?」
マサトが手を上げる。
「先生、この演習場って、本物と同じなんですか?」
ハヤトは頭を横に振りながら答えた。
「いや、さすがに全部は作ってないよ。この部屋と制御室くらいかな? 後は、シミュレーションで再現してるんだ。そこにあったエアロックも減圧室に繋がってるだけだよ」
マサトはきょろきょろと司令室の中を見回す。
「でも、この部屋は本物と一緒なんですか?」
マサトは周りの機械を色々と弄り始める。教科書で勉強したことはあるが、本物を見るのは初めてだ。
「さすが空木君、宇宙機には目がないね。本物よりは少し旧式だけど、基本的な構造は一緒だよ。この実習にも含まれているパイロット演習もここでやる予定だから、詳しくはそのときにね」
「分かりました。有難うございます」
マサトは口ではそう言いつつも、視線は周りの機械の間を漂っている。そんなマサトを見て、ハヤトは苦笑する。
「空木君、これから今回の演習の説明をするから、ちゃんと聞いておいて下さいね。まず、今回は出火元が作業準備室になります。これは、シミュレーションで再現された場所だけど、精度はかなり高いので、実物だと思ってもらってかまいません。作業準備室の情報はみんなの机にある端末から呼び出せるので、試しに見てみて下さい」
ハヤトの言葉に、四人はいっせいに机の上のタッチパッドを操作し始める。作業準備室のレイアウトや中にある機材などの情報があるようだ。火災演習なので、当然、火災センサや消火装置に関するデータも含まれている。
「皆、確認できたかな? で、その作業準備室の情報は全てこの司令室で見ることが出来ます。でも、消火装置などを操作するには、途中にあった機器制御室に行く必要があります。この部屋を出て直ぐ横だね」
ハヤトが出入り口を指差し、くいっと指を曲げる。
「何でこんなことをしているかというと、いつも指示を出す人と現場で作業をする人が一緒に居られるとは限らないからです。今回はその難しさを体験してもらうという意図もありますね。まあ、今回は船外活動をする訳ではないので、それほど支障はないと思いますが」
説明を聞いたフィリオがハヤトのほうを向いて質問する。
「先生、今回の演習は全て遠隔操作で行われるんですか?」
「はい。その通りです。機器の操作は地上実習でやったものとほとんど同じなので、少し触れば直ぐに慣れると思いますよ」
その答えを聞いたリズが身を乗り出して小声でマサトに話しかけた。
「おい、マサト。全部リモートらしいぞ。俺、実物の操作とかは勉強したけど、リモート操作はあんまやってないぜ」
「確かに、全部リモートって、レベル高いよなぁ……。まあ、頑張るしかないか」
お互いの顔が見られるかどうかは、かなり重要である。マサト達は内心動揺しつつも、ハヤトの説明を聞く。
演習内容を簡単にまとめると、倉庫のような役割を持つ作業準備室から出火するので、それをセンサで感知して中央司令室から指示を出し、機器制御室に居る人間が実際に対処するという流れのようだ。鎮火を確認して、現状復帰したところで、ハヤトに報告して演習終了となる。評価されるのは、対処が完了するまでの時間と現状復帰率、つまり、どれだけ出火前の状態にもどせたか、だ。
中央司令室と機器制御室はネットワークで接続されており、リアルタイムで通信できる。ただし、演習開始後に移動することは出来ないらしい。グループを二つに分ける必要があるが、皆で相談した結果、フィリオとサトルが司令室に残り、マサトとリズが制御室へと向かうことになった。
「じゃあ、マサト、リズ君、よろしくね。みんなでがんばろ!」
大きく手を振るフィリオに、マサトも手を上げて答える。
「おう、任せとけ! フィル、頼りにしてるぜ!」
マサトは軽く羽ばたいて司令室を出る。
制御室に入った二人は席へ座る。基本的な構造は司令室とほとんど差が無い。ただし、部屋の一辺をスイッチやダイヤルが並んだ制御盤が占めている点が異なる。その制御盤で機械の操作を行うようだ。簡単な操作方法はあらかじめレクチャーされているが、詳しいことはこれから調べておく必要がある。
マサトは体を固定し、無線式のヘッドセットを付けた。そして、司令室と通信できることを確認する。
「こちら制御室。聞こえるか? フィリオ」
〈こちら司令室。大丈夫だよ、マサト。リズ君は大丈夫?〉
「おう、聞こえるぜ」
〈僕も大丈夫。ちゃんと聞こえるよ。データリンクも設定したから、同じ画面が見えてるはずだよ〉
サトルの声を聞いて、マサトは手元の端末を確認する。〝共通〟と書かれた領域にデータが表示されている。フィリオが見ている画面とリンクしているのだろう。勝手に表示が切り替わる。
「さすがサトル、仕事はやいな。俺は細かいこと考えるの苦手だから、制御盤のほう行ってるぞ。向こうとのやり取りはマサトに任せた!」
言うが早いか、リズはひらりと体を宙に浮かせて、移動し始める。
「分かったよ、リズ。機器の操作は頼んだぞ」
マサトが再度端末に目を戻したところで、ハヤトからコールが入る。
〈みんな、準備は良いかな? じゃあ、始めるよ。演習開始!〉
ハヤトのコールが終了して直ぐに、アラームが鳴り響く。サトルが状況を報告する。
〈作業準備室の火災センサが作動したみたい。熱源センサと煙探知機が警告を通知してきてる〉
〈サトル君、映像って転送できる? あと、場所も分かったら教えて!〉
フィリオが言い終わると直ぐに、ディスプレイが作業準備室のレイアウトに切り替わり、センサが探知したポイントを示す。すばやい対応だ。加えて、光学カメラの映像も映し出される。しかし、カメラの解像度が低く、何が燃えているのかは判別できない。
〈ありがと。じゃあ、僕とサトル君は生命反応の確認するから、マサト達は対処方法リストアップしといて〉
フィリオが矢継ぎ早に指示を飛ばす。緊急時にまず確認することは、その現場に人が居るかどうかだ。人の有無によって対処方法がずいぶんと変わってくる。
〈サトル君、動体センサ〉
〈反応ないよ、フィリオ君〉
手早く対処するフィリオ達の会話を聞きながら、火災の近くにある消化装置の場所をリストアップし、リズに伝える。リズはそれを聞いて、操作方法を確認している。
〈熱源センサは?〉
〈駄目、火の勢いが強くて、わかんないよ〉
〈そりゃそうだよね。じゃあ、入室ログは?〉
〈誰もこの部屋には入っていないみたい〉
〈了解。じゃあ、生体反応無しっと。次は、僕がファンとかダクトの処置するから、マサトとサトル君で原因調査して。リズ君は引き続き、消火装置の確認ね〉
「了解!」
リズの元気な声が聞こえる。講義ではいつもやる気が無いが、体を動かす演習となると、とたんに元気になる。基本的に単純な奴である。マサトは火災原因の特定に取り掛かる。
「サトル、もっと綺麗な映像出せないか? これじゃ、何か分かんないぞ」
〈うーん……。ちょうど、カメラの死角になってて、これが一番綺麗な映像なんだ〉
「じゃあ、煙の化学組成とか分からないか?」
〈駄目、センサがあるダクトが遠くて、検知できないよ〉
煙の成分から何か分からないかと思ったが、無理なようだ。
「そうか……。参ったな」
マサトは顔を歪める。始まって早々、壁にぶち当たってしまった。燃えているものが特定できないと、次の手が打てない。手元の端末を見ると、フィリオが順調にファンを止め、ダクトを閉鎖している。こちらも急がないといけない。
「電気系統に異状は?」
〈ううん。問題なさそう。異状電流も流れてないし、ブレーカも作動してないよ〉
「じゃあ、原因は電気じゃなさそうだな。一体、何が燃えてるんだ?」
マサト達が手をこまねいていると、フィリオからコールが入る。
〈ファンの停止とダクトの閉鎖、完了したよ。これで、とりあえず、ブロック外への延焼は最小限に抑えれるはず。どう、マサト。原因は分かった?〉
「ごめんフィル。情報が足りなくて、これだけだと分からないよ」
何か使えるものはないかと端末を弄るマサトに、リズが声を掛けた。
「なあ、フィリオ。とりあえず、消火装置動かしてみようぜ。窒素ガスなら、もしミスっても問題ないだろ?」
窒素は空気にも含まれているため、機器に障害を引き起こすことも無いはずだ。
〈うーん、窒素ガスなら大丈夫だね。分かった。動かしてみて〉
「リズ、Bブロックの五番を三十秒間作動だ」
マサトの指示に従って、リズが消火装置を作動させる。カメラの映像では、真っ白いガスが炎に吹き付けられる光景が見える。一瞬、炎が小さくなったようにも見えるが、直ぐに勢いを取り戻す。
「駄目だ、フィル。でもこれで、酸化剤を含んだ物が燃えてるってことが分かったな」
〝燃える〟というのは、物が酸化することである。酸化剤を含まないものが燃えるためには、空気中から酸化剤、つまり、酸素を得る必要がある。窒素ガスは、この酸素の供給を止めることで消火する。今回の場合、火が消えないので酸化剤を含んだものが燃えていると考えるのが妥当である。
不安そうなサトルの声がヘッドセットから聞こえた。
〈爆発物じゃなかったらいいんだけど……〉
カメラの映像をずっと眺めていたマサトがはっと頭を上げ、フィリオにコールする。
「そうだ! フィル、作業準備室の備品リスト見せてくれないか?」
〈いいよ。サトル君、お願い〉
端末にサトルから転送された備品リストが表示された。マサトはタッチパッドを指でなぞり、リストを進めていく。数ページ捲ったところで、マサトの目に〝ニトロ化合物〟という文字が目に飛び込んでくる。
「フィル、これだ! リストの八ページ目の上から十二番目。中身は詳しく書いてないけど、ニトロ化合物には自燃性を持つものが多いからな。多分これだと思う」
〈ありがと、マサト。マサトの言うことなら、間違いないね。対処方法は?〉
フィリオの問いに一瞬考える。
「そうだな……。消火剤で温度下げてもいいけど、現状復帰が大変だから、減圧するか? 直ぐには消えないけど、延焼は防げるし、有毒ガスも排出できるぜ」
消火するには、酸素の供給を止めるか、温度を下げるもしくは、化学反応を止める必要がある。今回の場合、酸素の供給を止めるのは不可能なので、温度を下げるか化学反応を止めるしかない。消火剤を使えば可能だが、多量の泡が残るため、後掃除が大変だ。しかも、周辺の機械に悪影響を与える必要もある。
空気を抜けば、燃えているその物を消すことは出来ないが、少なくともほかの物に燃え移ることは防げる。また、物が燃えた時点ですでに何らかの有毒ガスが発生している可能性が高いので、どうせあとで空気を抜く必要がある。
マサトの提案にフィリオは直ぐに同意する。マサトのことを信頼しきっているようだ。
〈うん。よさそうだね! リズ君、お願い〉
マサトがリズに減圧方法を伝えようとしたとき、サトルから待ったが入る。
〈ごめん。ちょっといい? いま、システムを確認してたんだけど、減圧コントロールシステムの制御ソフトが入ってないみたいなんだ。与圧するときは自動で出来るんだけど、減圧のときは、ただ風量を調節することしか出来ないみたい〉
与圧に関しては、各気体の分圧制御や成分分析、有毒ガスや微生物の除去など制御項目が多いため、自動で行われる。しかし減圧に関しては、エアロックなど日常的に減圧が行われる場所を除いて、緊急時のみであるため、制御ソフトは用意されていない。つまり、全て手動で行う必要がある。
マサトが首を伸ばしてリズに直接問いかける。
「リズ、一人で大丈夫か? 俺も一緒に操作したほうがいいか?」
リズは手を振って答えた。
「いや、一人でいい。減圧操作なら、地上実習で何回かやらしてもらったし、多分出来る。良いよな? フィリオ」
〈リズ君なら、安心して任せられるよ。緊急時優先コード発行するから、リズ君の判断で減圧して。気流の情報とかはサトル君に送ってもらうから〉
減圧など、生命維持に大きな影響を与える作業は、制御室で勝手に行えないようになっている。通常は、作業を行うたびに司令室に許可を取る必要があるが、緊急時には優先コードを発行することで、制御室単独で判断して作業が行えるようになる。すばやい対処を行うには不可欠な措置だ。フィリオは現場での作業をきちんと理解して指示を出している。
マサトの制御卓にある〝独立〟の表示がグリーンに変化し、優先権が制御室に移ったことを示す。
「リズ、優先権が移ったぞ。ダクトA、B、Cとエアロックから空気抜けるみたいだ」
「じゃあ、減圧開始っと」
「リズ、ゆっくりやれよ。燃えてるものが拡散したら危険だから」
一箇所から一気に空気を抜くと、気圧の急変で突風が吹き、火災が広がる危険性がある。
「分かってるよ、マサト。まあ、見てろって。ダクトA、B、Cだよな? ダクト付近の気圧センサと風量センサの情報、こっちに回してくれるか?」
マサトはサトルから送られたデータを、制御盤にある端末に転送する。
「サンキュー、マサト。それにしても、コンタクト使えないって、不便だな」
演習室のシステムは若干古いため、コンタクトとの通信が行えない。最も、コンタクトは通信可能な距離が極端に短いため、すばやく動くシーンでは使いづらい。実際の現場でも満足につかえる場面は少ないだろう。信頼性を考えるとなおさらだ。
リズは手早く制御盤を操作する。体を動かすことで発生する反動を、尻尾を大きく動かすことで打ち消し、無重力下でも的確にスイッチやダイヤルを操作している。制御盤のディスプレイに表示された情報を確認しながら、風量に極端な差が出ないようにバランスよく空気を抜いてゆく。
マサトはカメラに目を向け、燃えているニトロ化合物が飛び散らないか確認する。
「凄いじゃん、リズ。全然、燃え広がってないぞ」
「だから言っただろ。これで、減圧終了っと。どうだ、フィリオ?」
〈うん、減圧確認したよ。流石だね、リズ君。今日のお仕置きは勘弁してあげるよ〉
ヘッドセットから皆の笑い声が聞こえる。フィリオは空気を和ませるのも上手い。
〈これで一安心かな。どうだろ、皆? 他に出来そうなことってあるかな?〉
フィリオの問いかけに、サトルが答える。
〈燃えてたのって、ニトロ化合物なんだよね? 爆発性の物も多いから、やっぱり早く火を消したほうがいいんじゃないかな?〉
〈うーん、やっぱりそう思うよね。マサト、リズ君、なんかいい案ないかな? 消すのは難しそうだから、宇宙に捨てちゃうのが良いと思うんだけど〉
「宇宙に捨てる、か。エアロックがあるから、なんとかなるかも。使えそうなもの、ちょっと探してみるよ」
マサトは先ほどの備品リストを再度見直す。
「なあ、備品リストの三ページ目にある、作業用マニピュレータって使えないかな?」
〈ちょっと待ってて、調べてみる〉
サトルの声が聞こえ、共有ディスプレイが目まぐるしく変化する。サトルが色々と調べているようだ。
〈うーん、パスワードでロックが掛かってるね。制御室からはどう?〉
マサトは端末を操作してみるが、〝権限なし〟の文字に変化は無い。
「こっちでも駄目みたいだ。今回の演習では使えないんじゃないか?」
〈ねえ、サトル君なら、パスワードくらい何とかなるんじゃない?〉
フィリオの無茶振りにマサトは苦笑する。
「さすがに、そんな簡単にいかないだろ。それに、パスワードを無理矢理解除するのはまずいんじゃないか?」
〈全く、マサトは心配性だね。本当にやばいときは宿森先生が注意してくれるでしょ〉
相変わらず強気なフィリオに呆れていると、サトルから返答が帰って来る。
〈パスワードだけど、何とかなりそうだよ。ログにパスワード残ってた〉
その時、あっという声が聞こえた。
〈いや、邪魔してごめん。何でも無いから、先続けて〉
珍しく焦ったハヤトの声が聞こえる。ログを消し忘れたことに少し焦ったのだろうか。
〈じゃあ、マサト、リズ君、使えるかどうか試してみてよ〉
マサトが再度端末を操作してみると、〝待機中〟という表示に変わっている。
「一応、ロックは解除できたみたいだな。リズ、どうだ? 動かせそうか?」
「だめだ、マサト。動かし方が全く分からないぞ。マニュアルも無いし、どうすりゃいいんだ?」
〈これにも制御ソフトが入ってないのかなぁ? 司令室からは権限が無いって言われちゃうよ〉
サトルがため息を吐く音が聞こえた。
「まあ、本来使う予定じゃなかったんだから、仕方ないな。こっちからしか操作できないみたいだから、何とか頑張ってみるよ」
マサトは早速、何か方法が無いか調べ始める。どうやら、制御ソフト自体は入っているものの、制御盤と接続されてないだけのようだ。直接コマンドを入力すれば動かすことは出来そうだ。ただし、このままでは加速度や移動距離、方向を一つずつ入れていく必要がある。
「どうだマサト、出来そうか?」
「うーん、難しいな……。とりあえず、制御盤のスティックから操作できるようにならないか試してみるよ」
試行錯誤を繰り返し、何とか制御盤とのリンクを確立する。
「多分、上手く出来たと思う。リズ、試してみてくれ」
リズがスティックを動かすと、カメラの中のマニピュレータが動いた。ただし、二本あるマニピュレータのうち、一本だけ。
〈あっ、動いた! 凄い!〉
フィリオがぱちぱちと手を叩く音が聞こえてくる。フィリオが喜んでくれると、俄然やる気が出る。
「でも、片方だけだな。もう片方はどうするんだ? マサト?」
「もう片方はこっちで動かすよ。ホントはそこで両方操作できるはずなんだけど、方法見つけるのに時間かかりそうだから」
コマンド入力で操るのはかなり骨だが、仕方が無い。
「分かった。じゃあ、まずは掴むぞ」
マサトは頷いて、端末をすばやく操作する。端末では移動先を一つずつ数値入力する必要がある。頭の中で座標を思い描いて、移動方向を指定するため、かなり頭を使う。マサトは全神経をマニピュレータの操作に集中した。
「よし、掴めた! 今度はエアロックの近くに持ってくぞ」
ぎこちない動きながら、何とかマニピュレータを操るマサト。燃えているものを落とすわけにはいかない。マサトは肩を強張らせて端末に向かう。コマンドだけでマニピュレータを操作すること自体、常人技ではない。
「じゃあ、エアロック開けるからな」
スティックを操作するために両手が塞がっているので、器用にも尻尾でエアロックを開けるリズ。
「OK! マサト、投げるぞ! 三、二、一、それ!」
リズの掛け声にあわせて、操作する。四人は息を呑んで、カメラを注視する。
〈やった! マサト、リズ君! 凄いよ!〉
ニトロ化合物がエアロックを通過した瞬間、ヘッドセットからフィリオの歓声が聞こえてきた。マサト側の操作が若干遅れたため、回転しながらだったが、無事エアロックを通過した。
「ふぅ、上手くいったぁ」
ほっとしたマサトは肩の力を抜く。翼を思いっきり広げ、強張った体を解す。
「やったな、マサト!」
リズがマサトのほうへ振り返って、ガッツポーズを見せた。
〈サトル君、鎮火の確認して〉
フィリオが間髪居れず、現状復帰作業に入る。減圧した作業準備室の与圧だ。
〈ええっと、熱源センサは反応してないみたい。詳しい温度はセンサの範囲外だから、分からないなぁ〉
〈了解。じゃあ、とりあえず純酸素入れてみる? どうかな、マサト?〉
燃えているものが取り除かれても、残った可燃物が熱を持っている場合、酸素を供給することで、再度燃え始める危険性がある。そこで、純酸素を入れることで、再度発火するかどうかを確認しようというのがフィリオの提案である。
「ああ、いいと思うぞ。純酸素なら、圧力低くて良いから、燃えたら直ぐにまた抜けばいいしな。でも、その場合は与圧制御システムを解除しないと」
〈与圧制御はもう解除したよ。あとは手動で酸素入れれるから〉
サトルの声に、マサトは顔を上げてリズに目で合図をする。リズは軽く頷き、制御盤を操作し始める。
机の端末では、徐々に酸素分圧が高まっていく。カメラをじっと見るが、発火する様子はなさそうだ。酸素分圧がおよそ二百ヘクトパスカルに達したところで、リズが酸素供給を止めた。そのまま数分間待ってみるが、何も変化は起こらない。この酸素分圧は大気とほぼ同じであるため、このまま与圧しても問題ないだろう。
〈どうやら、大丈夫みたいだね。じゃあ、優先コード返してもらうよ。あとはこっちで与圧システム動作させて、現状復帰するから。二人は休んでおいてね〉
「了解、フィリオ」
マサトは席を離れて、宙を舞い、大きく背伸びをした。リズも制御盤を離れ、マサトの方へと戻ってくる。
「お疲れ、リズ。なんとか終わったな」
「そうだな、マサト。それにしても、さすがはフィリオだな。事前に勉強しといたことが役にたったよ」
リズは体を揉みながら、宙を漂っている。流石のリズも、今回の演習は疲れたらしい。二人がゆっくりしていると、フィリオからコールが入る。
〈皆、お疲れ様! 先生に報告したから、演習はこれで終了! 司令室に戻ってきてね〉
マサトとリズはふぅっと息を吐いて、司令室へ向かった。
司令室では、ハヤトが出迎える。
「空木君、オルシーニ君、ご苦労様。ユーレ君と結城君にはもう話したけど、今回の演習、とっても良かったです。作業手順とか対処方法も完璧でした。色々と準備していたようだけど、もしかして演習内容ばれてた?」
「まっ、まあ、ある程度は予想してました」
マサトがおずおずと答える。ハヤトはその言葉に破顔一笑する。
「ははは、やっぱりね。結城君がバクに会いたいって言って来たから、多分そうだろうと思ってたよ。それにしても、連係プレー凄かったね。マニピュレータ使い始めたときはちょっと焦ったけど」
リズが笑いながらハヤトに質問する。
「へへっ、あれって、先生のミスなんですか?」
「ちょっと、リズ君、失礼じゃない!」
サトルが慌ててリズの口を塞ごうとするが、リズはひょいっと避け、くるりと回って尻尾でサトルの腕を叩く。
「失礼って、サトルが見つけたんだろ?」
サトルがしょげた様に耳を垂らす。ハヤトは少し照れた様子で、頭を掻いた。
「いや、結城君、良いんだよ。私のミスだから。それにしても、まさかログまで検索されるとは思っても見なかったよ。結城君、いいセンスしてるね。コンピュータの操作も早かったし」
褒められたサトルはこくりと頷き、ボソッとつぶやく。
「バク君に色々教えてもらったから……」
「そっかぁ、バクの直伝なら納得できるよ。バクとはこれからも仲良くしてね」
「はいっ!」
満面の笑みで答えるサトルの頭を優しく撫で、ハヤトは演習の評価を続ける。
「ユーレ君は結構大胆だね。船外投棄するというあの判断は素晴らしかったよ。最初の演習ではなかなか思いつかないことだね。コマンド入力でマニピュレータを操作した空木君にも驚かされたけど。あれは、僕にも真似できないなぁ。あとはオルシーニ君。実働はやっぱり強いね。減圧の手際、凄かったよ。勉強のほうもあれ位がんばってくれると嬉しいんだけど」
にやけた笑みを浮かべながら、ちょこんとお辞儀をするリズ。おそらく、反省はしてないだろう。
「まあ、一点注意するとしたら、投棄した備品かな。ユーレ君、投棄する前に、軌道確認しなかったでしょ? 今回はシミュレーションだったから良かったけど、実際は軌道に投入されたゴミが他のモジュールや宇宙機を傷つける可能性があるから、ちゃんと安全かどうか確かめないといけないよ」
ハヤトの指摘を神妙な顔つきで受け止めるフィリオ。そんなフィリオを元気付けるかのように、ハヤトが肩をぽんと掴み、口を大きく開けて笑う。鋭い牙がきらりと光った。
「それでも、初めてなのに、この演習をクリアするのは凄いことだよ。ちなみに、私達のグループは、対処完了までの時間もトップクラスで、現状復帰率は最高。お互いの連携も素晴らしかったし、総合成績としては、間違いなくトップだね。おめでとう!」
その言葉を聞いた一同の口から次々に歓声が上がった。フィリオが翼をはためかせ、マサトの方へ飛び込んでくる。相変わらず、勢いだけの飛行である。マサトも強く羽ばたいて衝撃を吸収しながらフィリオを受け止めた。
「やったね、マサト! リズ君とサトル君も有難う!」
「フィルがしっかりしてたからだよ! お疲れ様!」
マサトは、フィリオの体をがっしりと腕で掴む。リズとサトルもフィリオの元へ集まり、お互いの労を労った。
「サトル、お疲れな」
「リズ君こそお疲れ様。僕達は座っているだけだったけど、リズ君は色々動いたから、疲れたでしょ?」
興奮冷めやらぬ中、ハヤトが声を掛けた。
「皆、盛り上がってるところ、申し訳ないんだけど、そろそろここを出ないといけないんだ。一旦、今日の朝集まったところへ戻ってから解散になるから、リンク・ステーションのほうへ向かおうか?」
集合場所にはコトネやミズホ、カイ達の姿が見えた。演習の話題で盛り上がっているようだ。カイがこちらに気付き、小走りで向かってくる。
「フィリオさん、マサトさん、リズさん、サトルさん、お疲れ様でした。結果聞いてますよ。あの難しい演習クリアしたんですよね! 僕達は、減圧開始が遅くって、結局、消化剤で消火したんですよ」
カイは興奮気味に翼を広げ、先を続ける。ただでさえ体が大きいのに、翼を広げたため、圧迫感がさらに高まる。
「やっぱり、フィリオさんたちは凄いです! 今度、僕達にも色々教えてくださいよ」
カイは怖そうな外見とは裏腹に、とても礼儀正しく、普段からフィリオのことを慕っている。褒められているとはいえ、大きな体に詰め寄られると、少し怖い。フィリオは少し後ずさりしながら答えた。
「あっ、有難う、カイ君。そんなに褒められると、少し恥ずかしいけど」
フィリオとカイが軽く握手をする。
「まあ、俺が居るんだから、当然だよ」
フィリオの横ではリズが胸を張った。そんなリズの頭を、近づいてきたコトネがバシッと叩いた。
「どうせ、いつも通り迷惑かけてたんじゃないの? リズ君」
「痛いなぁ。突然なにすんだよ、コトネ。今回は俺も活躍したって! なっ、マサト?」
「まあ、〝今回は〟だけどな」
マサトはリズを追撃しつつも、目ではミズホの居場所を確認している。成瀬兄弟と話し込んでいるようなので、大丈夫そうだ。
「演習の結果聞いたけど、今回も流石だったわね。私達は備品の投棄なんか思いもつかなかったわ。まあ、おめでとう」
手をヒラヒラと振るコトネに対し、フィリオは得意の人懐っこい笑顔で答えた。
「今回は運が良かっただけですよ。それに、対処までの時間はコトネさんたちが最速でしょ。そんなに差は無いとおもいますよ」
そういうと、フィリオは再び手を差し出す。
「ありがと、フィリオ君。さっさと消化剤で消火したからね。これからもお互い、頑張りましょっ」
コトネは差し出された手をぎゅっと握り返した。かなりの力が入っているようで、コトネの腕がぷるぷる震えている。対するフィリオは必死で我慢しているようだ。笑顔が引き攣っている。
コトネは手を離した後、直ぐにミズホたちのほうへ戻ってしまった。カイはサトルと話し込んでいるようだ。マサトはフィリオにそっと近づいた。
「だっ、大丈夫か? フィリオ」
フィリオは手をさすりながら、横に居るマサトにつぶやく。
「勝ったよ、マサト」
満足げに頷くフィリオを横目で見て、マサトは改めて思った。この親友にはなるべく逆らわないようにしよう。
解散したあと、マサト達四人はハヤトに誘われ、ファミレスで簡単な祝賀会を上げた。祝賀会にはリョウコとバクも参加しており、演習やコトネ達の話題で盛り上がった。
祝賀会が終わり、マサトとフィリオは帰路につく。
「マサト、今日は大活躍だったね」
「なに言ってんだよ、一番活躍したのはフィルだろ」
フィリオは楽しげにスキップする。
「うん、それはもちろんそうだけどね。それにさぁ、僕の言ったこと間違えてなかったでしょ?」
「ん? 何のことだ?」
「ほら、前に言ったでしょ、今回の演習のこと。マサトが一生懸命考えてくれたんだから、絶対当たってるってさ」
マサトもスキップでフィリオを追いかけようとするが、どうも上手くいかない。
「あれかぁ……。でも、結局直ぐにばれてただろ。演習の内容」
「そんなこと、どうでもいいの! マサトが考えてくれたことが大事なんだから!」
フィリオがマサトににこっと笑顔を向ける。この笑顔がマサトをいつもどぎまぎさせる。マサトは恥ずかしくなって空を見上げたが、空は人工壁で覆われ、星空は見えない。宇宙の真っ只中に居るというのに、残念だ。
「やっぱり、マサトが傍に居てくれてよかった」
フィリオがマサトの手をちょこんと摘む。マサトは一瞬躊躇したが、その手をぎゅっと握った。フィリオと手を繋いで歩くなんて、子供のとき以来だ。
「おっ、俺だって、フィルが傍に居てくれて良かったと思うぞ。俺一人じゃ、何も出来ないし」
マサトのその言葉にフィリオはけらけらと笑い声を上げる。
「ホントにそうだよね。ミズホちゃんに詰め寄られたときとか、笑えたよ。あれ、動揺しすぎじゃない?」
「ほっとけよ」
マサトは握った手を大きく振って、家路を急ぐ。
「さっ、着いたぞ」
鍵を開けて家に入る。横のフィリオが大きな欠伸をした。
「ふぁぁ……。なんだか僕、眠くなってきちゃった」
「大丈夫か? ここ最近、寝不足で疲れが出たんだろ。今日はさっさと寝ろよ」
「うーん、分かってるよぉ、マサト」
フィリオはふらふらと部屋の奥へ歩き始める。マサトはしばらくの間、心配そうに親友の足取りを見つめていたが、歯を磨くために洗面台へと足を向けた。
――ドサッ
マサトが口を濯ごうとしたその時、寝室のほうから、何かが倒れる音がした。
「フィル!?」
歯ブラシを放り出し、飛び跳ねるように寝室へ向かうマサト。ドアを開けると、床に倒れた親友の姿が目に入った。慌てて駆け寄る。
「おい、フィル、大丈夫か!」
顔に耳を近づけると、すーすーという寝息が聞こえる。
「寝てる……のか? 何処も打ってないよな?」
マサトはフィリオの頭をそっと撫でて、打ち身が無いことを確認する。
「全く、いつも無理するんだから……。さて、運ぶか。んしょっと」
マサトは親友の体を引き摺りながら、ベッドの近くまで運ぶ。ベッドの布団を剥いでフィリオに掛けた。
「ここで、いいかな? 寒くないよな?」
そういうとマサトは、しゃがみこみ、親友を翼で覆う。その体をきゅっと抱きしめ、体温を確かめる。演習後の高揚感も手伝ってか、いつもより少しだけ大胆である。
「うん、暖かい。大丈夫そうだな。あんまり心配かけさせないでくれよ、フィル」
マサトは部屋のドアをそっと閉めて、自分の寝床へ向かった。今日はいい夢が見られそうである。
後編へつづく
スカイ・ドラゴンの♂16歳。成績優秀で、運動神経も良い。本編では博識な面を見せる。フィリオのためならいくらでも頑張れる?!しかし、ミズホは苦手なご様子。
エア・ドラゴンの♂16歳。いつも強気なグループのリーダ。頑張り屋だが、マサト以外にはその姿を見せたがらない。かなりの負けず嫌い。
ラビットの♂16歳。いつもふざけてばかりかと思いきや、本編では色々と活躍する。ただし、一言多いのは相変わらず。
ラビットの♂16歳。コンピュータの扱いなら誰にも負けない。センター長の祖母を持つ、真面目で優しい少年。AIを見るとテンションが上がる。
ホワイトウルフの♂28歳。お仕事でここ最近忙しいらしいが、マサト達と少しプライベートな交流が出来て良かったようだ。リョウコには若干頭が上がらない?
ホワイトタイガーの♀29歳。ハヤトの恋人で、ほむらの計算機エンジニア。バクの生みの親。普段は優しいが、怒るとハヤトに負けず劣らず、鋭い目つきになる。
3歳のAI。ほむらの有機素子と光学素子のハイブリットコンピュータを本体に持つAI。普段は生体端末を通して外部とコミュニケーションをとっている。あっという間にマサト達の人気者になる。
イエネコの♀17歳。相変わらずマサト達をライバル視している。ミズホには良くからかわれているようだが、信頼もされている。
イエネコの♀16歳。姉に積極的に協力する気は無いらしい。何かとマサトに絡んでくることが多い。人当たりのいい性格。
ハイイロオオカミの♂16歳。一卵性双生児の兄。真面目だが、天然な面もある。お互い、そう思っている。
ハイイロオオカミの♂16歳。一卵性双生児の弟。真面目だが、天然な面もある。お互い、そう思っている。
イーグルの♂16歳。マサト達と同じ課程に属するグループリーダの一人。フィリオを尊敬している。見た目は怖いが、とても礼儀正しい。
ハイイロオオカミの♀66歳。カリスマ性あふれるほむらのセンター長。サトルの祖母に当たる。